現在の建築史研究室は、日本建築からアジアまでを幅広く渉猟する中川武名誉教授と小岩正樹准教授、近代建築を専門とする中谷礼仁教授の指導により運営されている。
当建築史研究室の創立年は、故田辺泰教授が大学院教授として任ぜられた1951年である。ただし、建築史の観点から大学の歴史を繙けば、大隈講堂他すぐれた作品を設計した佐藤功一教授や、日本における建築史学の創始である伊東忠太教授らが教鞭を執っていた学科創設時代にさかのぼることができる。
田辺教授は古建築の調査研究に関して多大な成果を挙げ、特に被災を被ったため現存しない沖縄の古建築について、貴重な記録遺産を残したことで知られる。後任の渡辺保忠教授(1963年着任)は、「保忠史学」とも呼ばれる建築生産関係の分析による独創的な視点で日本建築史をまとめる一方、1970年代からのエジプト発掘調査においても多くの建築考古的発見をおさめた。渡辺教授は1993年の早稲田大学を退任後も、保存事業などで活躍した後、2000年5月に逝去した。
中川教授(1984年着任)は、日本建築における建築表現と設計技術に関する研究を、「木割書」と呼ばれる近世建築技術書の分析を中心に進めた。直後には日本近世建築を専門とするが、展開される論理の射程は広く常に現在的な視点に立ち、批評及び作家論でも注目すべき活躍をしている。また1981年に中川教授を中心としたアジア建築研究会が組織された。研究室の現在の中心的な活動である、設計方法分析を中心とした諸アジア地域の建築研究も始められ、現在は小岩准教授(2014年着任)が研究室を引き継いでいる。また、中谷教授(2007年着任)は、日本の近代建築を中心に、出版活動など幅広い研究を展開している。
研究室全体の活動としては、古典建築学書の読解研究と夏期休暇を利用した国内の社寺民家などの実測調査がある。この共同作業は当研究室に連綿と受け継がれており、大きな成果を残している。これと同時に、多様な研究を行う各人を一研究室の成員としてまとめる役割も持つ。
一方、個別研究としてアジア建築研究が挙げられ、インド、スリランカ、タイ、ミャンマー、ベトナム、中国など各地域で着実なサーベイが認められる。当研究室が中心となり進めている、日本政府によるカンボジア・アンコール遺跡の修復保存事業も進行中である。
エジプト建築研究においては、早稲田大学古代エジプト調査室の発掘調査で、建築班として参加している。近年ではダハシュールでツタンカーメン時代のものと思われる遺跡が発見され、海外からの注目を浴びている。またピラミッド傍に埋められていたクフ王の第二の船の存在を立証し、現在理工学総合研究センターに特別チームを編成して、展示施設までを含めた総合復元プロジェクトを進めている。
これら二大研究以外にも、若手研究者が独自の視点を持ち、ヨーロッパ、中国、中南米、イスラム、日本近代、そして日本古建築に至るまで様々な研究を行っている。